任意整理
負債額÷返済可能額(収入から生活費を控除した額)が,36回以内であれば任意整理を検討し,それ以上であれば個人民事再生もしくは自己破産というのが一つの判断基準となります。
しかし,債権者との取引が長ければ,かなりの債務圧縮が期待でき,これらの調査を経て慎重に判断することが実務の世界の常識であり,重要なところでもあるのです。
この方法は,債権者と個別に交渉して,債務を利息制限法で引き直して計算し直し,その額を基準として今後の支払方法を策定して返済を継続していくというものです。
似て異なるものとして,特定調停というものがあります。
大きな違いは,特定調停は裁判所が関与するのですが,任意整理は,私的に(裁判所を通さないで)債権者と交渉して返済方法を協議するものです。
また,特定調停の場合には,過去の取引履歴を開示するよう求める調停委員会の命令等がありますが(実務では多くは発令されてない),任意整理でも,今は取引開示義務が認められているため,確定する債務額に大きな違いはありません。
しかし,特定調停は裁判所が関与することはお話しましたが,この調停内容の履行が2回分以上遅れた場合には,強制執行(給与差押,不動産差押,預貯金口座差押等)を直ちに受けることになってしまうおそれが高いです。
任意整理の場合は,和解書を取り交わしてその履行が滞ったとしても,勝訴判決などの強制執行をする前提としての手続きを別途踏まなければならないため,直ちに強制執行を受けることはありません。
任意整理の意義
- 利息制限法による元利計算を行い,その額を基準に今後の返済計画を立てる
- 最終取引日以降は,遅延損害金を付させない
- 和解後の分割金に利息は付さない(将来利息のカット)
- .なぜ,このような多重債務に陥ったのか,客観的に専門家からアドバイスを受けられ,生活改善ができる。
- .最後の返済の管理まで専門家に依頼できる
過去の取引をすべて利息制限法に引き直し,その残額について,将来利息が付かないことが大きなメリットです。
支払い原資(返済金)の確保
- 今後最低でも3年間は収入に大幅な変動がないことをある程度確認する。。
- 3年間に予想される,子供の進学,賃貸借契約の更新料,自動車保険,車検,税金の支払い等を考慮する。
- 配偶者のパート収入,副業の収入はあまりあてにしない。
- 親族等の援助者がいる場合,援助の内容(額,援助者の職業・収入)を正確に把握しなければならない。
- ボーナスはその半額しか返済計画では考慮しない。
- 家計表をつけて,理論的な返済可能額をだす。
- 毎月可能な返済額よりも,1万円を上乗せした金額を毎月積み立てる(理想)。
- ぎりぎりの返済計画は立てない(返済途中での病気やケガに備える)。
心構えとして
- 今後,3年間は厳しい生活を覚悟する。
- 安定した支払原資を確保するため,職業,住居,家族関係など生活全般にわたって,できるだけ支出をしないような生活を心がける。
- 今後,借金をしない。現在では,任意整理もしくは自己破産をしても,金銭を貸し付ける業者がいるので注意。
- よくある話として,「自動車だけは手放したくない」,「クレジットで購入したパソコンはこのまま使いたい」,「自宅は手放したくない」などと,気持ちは痛いほど分かりますが,やむを得ずそれらを売却したり,返還して残債務を減らしたりすることもあり得ることは肝に銘じておく。
- 給与の差押をしてくる業者もいるので,この場合には特定調停等その他の手続をしなければならない場合があることもある。
- 任意整理は,法的手続きではなく,あくまで債権者との私的交渉によるのですが,裁判所が関与する法的な手続のように,担当する専門家がきちんと債務者の支払い能力及び資産状況を把握し,履行が確実であると見込みがないのに整理するような専門家には依頼しないこと。
- 任意整理とは,私的な整理方法であるが,債権者平等の原則もあるし,また,専門家の役目は債権者からの請求が止まり盾の役割を果たすものの,これが目的ではなく,本来の目的は,借り入れをした方の社会的更生にあることを自ら自覚し,信頼関係のもと,計画を完全に遂行していけるよう最後まで協力をすること。
日本司法書士会連合会の統一基準
日本司法書士会連合会統一基準
1.取引経過の開示
当初の取引より全ての取引経過の開示を求める。
取引経過の開示は,金融庁の事務ガイドラインにも明記されており監督官庁からも業者に対し徹底することが指導されている。もし取引経過の開示が不十分な場合,和解案が提案できないことを通知し,監督官庁(財務局,都道府県知事)等へ通知する。
2.残元本の確定
利息制限法の利率によって元本充当計算を行い債権額を確定すること。
確定時は債務者の最終取引日を基準とする。
3.和解案の提示
和解案の提示にあたっては,それまでの遅延損害金,並びに将来利息は付けないこと。
債務者は,既にこれまでの支払いが不可能となり,司法書士に任意整理を依頼してきたものである。担当司法書士としては,債務者の生活を点検し,無駄な出費を切り詰めて原資を確保し和解案を提案するものであり,この残元本にそれまでの遅延損害金,並びに将来利息を加算することは弁済計画を困難ならしめる。
したがって,支払いについては,原則として遅延損害金並びに将来利息を付けない。
任意整理と特定調停との比較
任意整理 |
特定調停 |
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手続き追行者 | 専門家 | 本人(または専門家) |
費用 | 着手金と報酬金が必要 | 本人が行えば低額(収入印紙と予納郵券代) |
取立の中止 | 専門家の受任通知到達 | 本人が事件番号を債権者に連絡 |
実施場所 | 専門家の事務所 |
簡易裁判所(相手方の本店・営業所を管轄する) |
債務名義化 | しない | する |
将来利息 | 免除 | 免除(一部強硬な債権者には付加する場合あり) |
遅延損害金 | 免除 | 約定支払日の翌日から調停成立日までの損害金が付加される |
過払い金の回収 | 任意整理と同時に可能 | 特定調停の中では不可 |
元本カット | 本人の生活状況により可能な場合あり | 稀に可能 |
信用情報機関への登録 | あり | あり |
履行の管理 | 専門家において可能 | 本人の自己管理 |