破産法に関するQ&A

1 破産手続が開始される原因とは?

新破産法の目的として,破産法第1 条(目的)は,「支払不能又は債務超過にある債務者の財産等の清算に関する手続きを定めて,債権者等の利害及び債務者と債権者との間の権利関係を適切に調整し,もって債務者の財産等の適正かつ公平な清算を図るとともに,債務者の経済的再生の機会を図ること」を目的としており,破産開始原因は,自然人については,破産法15条により,「支払不能にあるとき」と規定し,同条2項で,「支払を停止したときは,支払不能と推定する」とされているところであり,債務者が法人の場合には,破産法16条により,債務超過も破産手続開始の原因とされています。


2 それでは「支払不能」とは,どのような場合を意味するのでしょう?

破産法2条(定義)のよって,「支払能力を欠くため,弁済期に,一般的(総債務について)かつ継続的に弁済できない状態をいう」とされています。

さらに細かくみて,それでは,「支払能力を欠く」とはどのようなことかというと,債務者の支払能力とは,「財産」「信用」「労務」によって成り立つところ,これらいずれによっても債務の弁済が不可能な場合を指します。

これらは客観的に判断されることになります。

 

3 債権者が1社でも破産開始決定は出るのでしょうか?

判例,通説でも,認められています。

 

4 どこの裁判所に申立てを行うのか?(管轄)

(原則)

  1. 債務者が営業者である場合,主たる事務所の所在地を管轄する地方裁判所
  2. 債務者が営業者でない場合あるいは営業所を有しない場合,普通裁判籍(住所地等)の所在地を管轄する地方裁判所

(特例)

  1. 親法人について,破産事件,再生事件,更生事件が係属している場合,子会社の破産申立は親法人の事件が係属している地方裁判所にも申立ができる(その逆も可)。
  2. 法人と代表者(代表取締役等)の場合,どちらか一方が係属している地方裁判所にも申立ができる。
  3. 相互に連帯債務者の関係のある個人,相互に主たる債務者と保証人の関係がある個人,夫婦の場合,一方が係属している地方裁判所にも申立ができる。

なお,これらの管轄は,破産手続開始の申立を行うときを基準に判断され,その後(申立後)に住所等が移転しても影響を受けない。

 

5 破産手続開始決定を受けた場合,係属中している訴訟はどうなるのか?

破産手続の開始によって,破産者を当事者とする訴訟は中断します。

 

6 破産手続開始決定を受けた場合,現に実行されている差押(強制執行)はどうなるのか?

破産債権若しくは財団債権で,破産財団に属する財産に対する強制執行,仮差押,仮処分,一般先取特権の実行,企業担保権の実行は新たに申立てることはできず,既になされている手続きは失効します。

 

7 破産手続開始の申立を行った債務者は,何時までならその申立を取下げることができるのか?

破産手続開始の決定前に限って取下げを行うことができます。つまり,裁判所より破産手続開始決定が出れば取下げをすることができなくなります。

 

8 破産手続きの送達や通知は,どのようなものがあるのか?

旧法では,決定の形式でなされるものは送達しなければならないとされていましたが,新破産法では,次のような裁判が送達の対象となります。

  1. 他の手続の中止命令等に関する裁判
  2. 債務者の財産に関する保全処分の裁判
  3. 一般調査期日の変更等に関する裁判など

次に,送達までは必要ではなく,通知で足りるものとして,

  1. 破産手続開始の通知
  2. 手続開始後に破産債権の届出をすべき期間及び破産債権の調査をするための期間・期日を定めた場合の通知
  3. 破産手続開始の決定を取消す決定が確定した場合の通知

などが挙げられます。

 

9 破産手続開始決定の効力は?

  1. 破産手続開始決定により,破産者が,破産手続開始のときにおいて有する一切の財産及び破産者が破産手続開始決定前に生じた原因に基づく将来の請求権は原則,破産財団を構成して,行使等の権限は破産管財人に移ります。
  2. 破産者は,破産手続開始決定後遅滞なく,財産の内容を記載した書面を裁判所に提出しなければならず,破産者がこれを拒み,または,虚偽の書面を提出したときは,3年以下の懲役または300万円以下の罰金を科せられる可能性もあり,さらに,免責不許可事由にも該当してきます。
  3. 破産者は,裁判所の許可を得ないで居住地を離れることができず,これに違反した場合は,免責不許可事由に該当してきます。
  4. 破産管財人の職務遂行のため必要と認めるときは,裁判所は,破産者宛の郵便物を破産管財人に転送するよう嘱託することが可能となります。

 

10 破産債権(優先的破産債権,一般破産債権,劣後的破産債権,約定劣後債権)とは?

  1. 優先的破産債権は,一般の先取特権(給料や退職金等雇用関係に基づいて生じた債権,日用品の供給により生じた債権,健康保険料等,国民年金の保険料等,厚生年金の保険料等,国民健康保険の保険料等)と一般の優先権がある債権(国税,地方税等)をいいます。
    なお,破産手続開始当時,納期限未到来のものまたは納期限から1年を未経過のものは財団債権とされているため,破産債権に優先して,破産手続によらないで破産財団から随時弁済を受けられます。
  2. 一般破産債権とは,優先的破産債権,劣後的破産債権,約定劣後破産債権以外の破産債権のことをいいます。
  3. 劣後的破産債権とは,破産手続開始後の利息請求権,破産手続開始後の不履行による損害賠償請求権または違約金請求権,破産手続開始後の延滞税・利子税等の請求権,租税等の請求権で破産財団に対して破産手続開始後の原因に基づくもの,加算税・加算金の請求権,罰金等の請求権,破産手続参加費用の請求権等をいいます。
  4. 約定劣後破産債権とは,債権者と債務者との間において,破産手続開始前に,破産手続が開始された場合,当該破産手続における配当の順位が劣後的破産債権に後れる旨の合意がなされたものをいいます。

 

11 財団債権とは?

  1. 破産債権者の共同の利益のためにする裁判上の費用の請求権
  2. 破産財団の管理,換価及び配当に関する費用の請求権(破産管財人の報酬含む)
  3. 租税債権で,納期限未到来または納期限から1年未経過のもの
  4. 破産財団に関し破産管財人がした行為によって生じた請求権
  5. 事務管理または不当利得により破産手続開始後に破産財団に対して生じた請求権
  6. 委任の終了または代理権の消滅後,急迫の事情があるためにした行為によって破産手続開始後に破産財団に対して生じた請求権
  7. 双方未履行の双務契約において,管財人が債務の履行をする場合において相手方が有する請求権
  8. 破産手手続の開始によって双務契約の解約の申入れがあった場合において,破産手続開始後その契約終了に至るまでの間に生じた請求権
  9. 破産管財人が,負担付遺贈を受けた場合で,遺贈の目的の価額を越えない範囲で,相手方が有する負担の利益を受けるべき請求権
  10. 破産手続開始前3か月間の給料請求権,退職手当の請求権で退職前3か月間の給料の総額に相当する額のもの

これらは,破産手続によらないで随時弁済を受けられます。

 

12 借りた本人(債務者)が破産した場合,連帯保証人には影響があるのでしょうか?

債務者が破産手続開始決定を受けた場合,債権者は,連帯保証人に対して,保証債務の履行請求権を行使してくることになります。

つまり,債務者の破産の効力は保証人には影響せず,債務者が免責を得たとしても,連帯保証人に対する権利に影響を及ぼさないことになります。

一方,保証人が破産をした場合にはどうなるかですが,破産法105条によって,破産手続開始決定時における債権額全額につき,破産手続に参加できます。債務者は,特段の債権者との特約がないない限り,分割債務であれば,分割で支払っていくことになりますが,債権者は裁判所に届出た債権額を変更(一部弁済による)する必要はないとされています。

 

13 別除権とは何でしょうか?

別除権とは,破産手続開始のときにおいて破産財団に属する財産について特別の先取特権,質権,(根)抵当権を有する者が,これらの権利の目的物に対して破産手続によらないで行使できる権利をいいます。

破産法100条により,破産債権は,破産法に特別の定めがある場合を除いて破産手続きによらなければ権利行使ができないのが原則ですが,別除権者は,破産手続きによらずに目的物から優先的に弁済を受けられることになっています。

例えば,住宅ローンを組んだ債務者が,破産開始決定を受けた場合,住宅ローン債権者である銀行等は,破産手続きによらずに,破産手続とは別に担保権の行使(競売)ができることになります。

別除権の権利とは,動産の先取特権,不動産の先取特権,船舶先取特権がありますが,一般の先取特権は別除権ではなく,優先的先取特権として扱われます。一般の先取特権は,債務者の特定の財産から優先弁済を受けるのものではなく,債務者の総財産から優先弁済を受けるため別除権者でないことになります。

商事留置権は,別除権となりますが,民事留置権は別除権とは認められておりません(破産法66条)。

 

14 自由財産とは何でしょうか?

破産者の生活保障や経済的な更生を確保する制度です。

破産手続きは,破産者の破産手続開始決定時に存する財産を,換価処分して,これを破産債権者に公平に配当する手続きですが,この配当原資となるのが破産財団と呼ばれるものです(破産法34条)。

自由財産とは,破産者の破産手続開始時に存する財産でありながら,破産財団を構成しない財産ということになります。

具体的には,現金99万円まで,民事執行法第131条1項各号に定める差押禁止動産,恩給法11条,厚生年金保険法41条,国民年金法24条,児童手当法15条,児童扶養手当法24条,雇用保険法11条,自動車損害賠償保障法74条等の特別法上の差押が禁止される財産です。

しかし,これらは一概に決定されるのではなく,裁判所は,破産手続開始の決定が確定してから1か月を経過するまでの間に,破産者の申立てによりまたは職権で,決定により,破産者の生活の状況やその他の状況を考慮して,自由財産となるべき財産の範囲の拡張をすることができるとされています(破産法34条4項)。ただし,裁判所が,この決定を出すには,破産管財人の意見を聴かなければならないとしています(破産法34条5項)。

以下,個別財産について解説します。

(1)退職金

破産開始決定がなされても退職する必要はありませんが,在職中であれば,退職金見込額の8分の1の金額が20万円を超えると,超えた額が破産財団に組み込まれます。

また,破産開始決定後に退職した場合は,退職金請求権の4分の1が20万円を超える場合,4分の1に相当する金額が破産財団を構成することになります。

なお,破産手続開始決定時において既に退職し,20万円を超える退職金を受領している場合は,退職金として扱われず,現金または預金債権として扱われることになります。

(2)自動車

自動車の換価し得る金額が20万円を超えない場合には破産財団を構成しません。

通常,普通乗用車であれば,初年度登録から6年が経過していれば,査定までは求められないのが原則ですが,高級車や人気車であれば,6年を経過していても査定を求められることがあります。

(3)不動産

破産者名義の不動産は,破産財団を構成します。

しかし,住宅ローンがオーバーローンの状態になっていることが多いため,実際には,住宅ローン債権者による競売手続き,または任意売却で処理することになります。

(4)敷金

賃貸借契約に基づく敷金返還請求権は,将来の債権であるため原則破産財団を構成し得る請求権となりますが,同じ賃貸物件に何十年も住んでいる場合や使用方法により敷金の返還が受けられない可能性もありますし,現実の具体化までには相当な年数を要することと,関東地方では敷金の額が高額ではないことなどから,ケースバイケースですが,一般の賃貸物件に関する敷金であれば,財団に組み入れない取り扱いです。

(5)電話加入権

現在では,価値のないものとなっているため,破産財団を構成しません。

(6)家財道具

一般の方が使用している日常家財道具であれば,特に財団を構成しません。

(7)生命保険の解約返戻金

保険を解約すれば,返戻を受けられる将来の債権であるため,その金額が20万円を超えれば原則破産財団を構成する運用です。

また,契約者貸付けなども利用しており,返戻金の額が契約者貸付けと相殺すると,返戻金の額が20万円を超えないケースも多々あります。

20万円を超えた場合,原則,保険契約を解約し,返戻金を破産財団に組み入れることになりますが,高齢や既往症などの理由で,同保険を解約すると次の保険に入れる可能性が極めて低くなる場合には,保険を解約せず,返戻金相当額を親族などに援助してもらい,保険契約はそのままという実務上の運用もあるところです。

なお,平成3年4月1日以前に個人が契約した簡易生命保険については,差押えが禁止となっているため,自由財産ということになります。

 

15 否認とは何ですか?

破産手続開始前になされた債権者を害する行為(責任財産の減少行為や偏頗弁済等)の効果を失わせ,その行為によって逸失した財産を取り戻し,破産財団のために回復する権利をいいます。

否認権の対象となる行為は,大きく分けると、ア「詐害行為」(不当廉売や財産隠匿等)とイ「偏頗行為」(特定の一部債権者への担保提供や弁済行為等)に分けられます。

アの詐害行為否認は,①時期を問わずに,破産者が破産債権者を害することを知って行った詐害行為を指しますが,これによって利益を得た者が詐害行為であることを知らなかったときは,これには該当しないこととされています。

もう一つの類型として,②支払停止又は破産手続開始申立て後の詐害行為であることが要件ですが,これによって利益を得た者が支払停止又は破産手続開始があったこと及び破産債権者を害する事実を知らなかったときは,詐害行為否認に該当しないこととされています。

上記いずれも,受益者が害する行為と知らなかった事実は,受益者において証明責任が生じます。

イの偏頗行為否認は,支払不能後又は破産手続開始の申立て後に,既存債務についてなされた担保の供与又は債務の消滅に関する行為を行い,受益者が,支払不能であることや支払いの停止があったこと,破産手続開始の申立てがあったことの悪意が必要になります。

次に,無償否認として,破産者が,対価を得ないで財産を減少する行為(贈与,債務免除等)をなし,又は債務を負担する行為を,支払停止後又はその前6か月以内になした場合又はこれと同視すべき有償行為は,否認の対象となります(破産法160条3項)。

それでは,社会的活動に不可欠な冠婚葬祭費や誕生日の贈り物は,社会的相当な額であれば,否認の対象には原則なりません。

次に,離婚に伴う財産分与をする者が債務超過の場合については,正当に分与されるべき部分については,破産財団を構成しないため,過大とならない額であれば,詐害行為の対象になりませんし(最判昭58年12月19日民集37巻10号1532頁),離婚による慰謝料の支払いについても,その慰謝料の額が適正なものであれば,詐害行為とはみなされません(最判平12年3月9日民集54巻3号1013頁)。

 

16 同時破産廃止とは何ですか?

破産法上,破産手続は,破産管財人を選任して行う管財手続を原則としていますが,破産財団たる財産が僅かで,破産手続費用を支弁するだけの費用が賄えない場合には,そのまま破産手続を続行しても無駄ですから,例外的に,破産手続開始決定と同時に破産手続は廃止されます(破産法216条)。これを同時破産廃止と呼んでいます。

そして,この要件としては,破産手続開始時において,破産財団をもって破産手続の費用を支弁するのに不足すると裁判所が認めたときです。

この破産手続費用とは,破産手続を進めていくのに必要な各種の費用,破産財団の管理・換価費用,管財人の報酬などです。

つまり,この場合には,破産管財人は選任されないことになり,各種資格制限の効果が復権するまで継続することになりますが,破産者は,財産の管理処分権を失わないことになります。

 

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