債務整理(総論編)第4章

債務整理(総論編)第3章の続きです。

第4章 具体的事例に沿った手続きの選択

  1. 事例1

相談者A(63歳)
自営(請負大工)月額平均8万円の収入
(その他に自宅の1部屋を賃貸しており,賃料収入月額6万円)

負債状況(資料3)
同居親族:妻(55歳)(内職で月額1万円の収入)(妻自身484万円あまりの借金あり(資料4))
別居親族:子2名(長男:派遣社員・月額20万円(大学の奨学金の返済中)長女:アルバイト・月額14万円(自動車ローンあり))

資産:自宅テラスハウス(9,226,902円の抵当権,不動産評価額は7,886,896円)

オーバーローン率: 残債務額 ÷ 評価額
9,226,902円 ÷ 7,886,896円  = 約1.17倍

住宅ローンの支払は10ヶ月停止中
債権:請負代金45万円が未回収(ただし,相手受注元は行方不明)
借金の原因:日給の減少と子の学費からの借入

生活状況:(資料5)

対応:生活保護(資料6),破産申立,不動産売却

 

事例2

相談者B(55歳)
職業:会社員  月額収入:26万円
退職金(予定):320万円(40万円)

同居親族:妻(50歳)と子(25歳)の3人暮らし
(妻の借金・300万円(8社)・持病(肝臓病)・死産経験による精神障害)
(子の借金・230万円(6社)・母親から生活費が不足するということで懇請されて借金を開始。信販系で15万円を最初に借りたが,翌月に利息込みの一括返済のため,さらに借金。パートの仕事を見つけては働き始めるが,勤務先の倒産,解雇により収入が安定せず。)
住居:アパート(賃料6万5000円)

借金の総額:約480万円(11社)
借金の発端:本人の突然の入院(脳血栓)による月給の減少(22万→12万円)

生活費の状況:別添のとおり(資料7)

対応:一家で破産

問題点:本人に退職金の将来債権があり,これが20万円を超えるため少額管財事件となる(本人のみ)。そのため,裁判所の指示で20万円の予納金を支払う よう要請されるが,見込みなく,本人の申立てのみ一旦取り下げ,お金を貯めて再度の申立て。法律扶助を検討したが,立替等の制度はもう利用したくない。貯めてから申立てを行うとの強い意欲あり。)

 再びBの入院等で生活が困窮する事態に遭遇した場合には,生活保護の方法を教え,子もこれまでは借金のことで頭がいっぱいで働くことが二の次であった が,支払義務を免除されたことにより,不測の事態に備えるべく再就職を果たしている。

 

事例3

相談者C
パート収入月額 8万円
家族構成 夫と子の3人暮らし(夫:収入28万円,子:小学2年生)

借入の状況と残債務


債権者 当初借入年 和解前の債務額 和解後の支払額
請求金額 月額 支払額 月額
A社 平成12年 50万円 2.2万円 5万円 一括弁済
B社 平成15年 30万円 1.8万円 10万円 3000円
C社 平成16年 50万円 2万円 15万円 5000円
D社 平成17年 47万円 2万円 30万円 8000円
E社 クレジット 39万円 1.5万円 39万円 9000円
F社 平成18年 30万円 1.5万円 20万円 5000円
合計 246万円 11万円 119万円 3万円

 

事例4

相談者D
年齢32歳(会社員)
家族構成(両親の居宅で同居(独身))

給与:18万円
債権者数:9社

整理前の負債総額:約720万円
整理前の約定返済額:約25万円

整理後は下表のとおり:

債権者名 和解による返済額 毎月の返済額 返済回数
A社 1,499,304 30,231 50
B社 186,784 3,766 50
Cファイナンス 325,506 6,563 50
D社 299,626 6,041 50
E信販 312,861 6,308 50
Fクレジット 223,251 4,501 50
G保証 353,189 7,121 50
H社 364,474 7,349 50
I信販 402,597 8,118 50
合計 3,967,592 80,000  
 

※按分弁済の考え方

支払可能原資額÷支払総額×個別の支払額

本件で考えれば,
支払予定原資(8万円)÷396万7592円(これが返済率となる)≒0.020163

I信販の場合

0.020163×40万2597円≒8117.5633円(これが月額按分返済額となる)

 

事例5

相談者E
年齢:51歳(パート)(働き始めたのは1年前でそれまでは体調不良により長期間働くことができない状況にあった)
給与:8万円

状況:夫と別居中で夫から生活費として月額20万円の仕送りあり(成人した子2名いる)
債権者数:11社
負債総額:900万円

借入れの原因:精神的ストレスによる買い物依存症
利息制限法に基づく計算後の負債総額:700万円

手続きの検討:
任意整理または特定調停の場合
700万円の元本を3年で支払う≒19万4444円
700万円の元本を4年で支払う≒14万5833円
700万円の元本を5年で支払う≒11万6666円

破産の場合
 免責不許可事由
 管財人の予納金
 買い物依存症の問題

本人の希望
 個人再生の検討
 700万円を基準に考えると,再生計画認可決定が出た場合の支払総額は140万円で,これを原則3年で支払うとすると月額約3万8888円となる。

 

事例6

相談者 甲野太郎
年齢:40歳
家族構成:妻 甲野陽子(35歳)専業主婦(現在妊娠)

年収:600万円
退職金見込み額:300万円
生命保険の解約返戻金:30万円
過去に完済した貸金業者からの過払い金:30万円
預金:1万円
給料天引財形貯蓄:30万円
保有自動車あり:初年度登録平成12年の日産ラルゴ

自宅マンション:評価額証明書による額は1300万円
住宅ローンあり:残債2200万円で月額8万3333円の返済(住宅ローンを組む際,銀行よりキャッシングもできるカードも一緒に申し込むよう依頼があり,その後,このカードを利用して銀行から無担保キャッシングも別途30万円あり)
利息制限法による引き直し計算後の負債額:1500万円 (この内,保有する自動車のクレジット残債務あり)
債権者数:7社

本人の希望:自宅と自動車だけは手放したくない

手続きの検討
自宅と自動車を手放さない方法は,任意整理または特定調停を行う必要がある。

そこで,検討するに,
元本1500万円を
  3年で支払う場合≒41万6666円
  5年で支払う場合=25万円
1か月の返済額は25万円+8万3333円=33万3333円

生活を考えると,食費7万円・光熱費3万円・通信費2万円・保険料1万5000円・マンション管理費3万5000円・医療費2万円・駐車場代5000円・ ガソリン代8000円・被服費3000円・日用雑貨費5000円・交際費6000円としても合計21万7000円が最低生活費として必要となる。

負債1500万円を5年で返済し,住宅ローンは約定どおりに支払って1か月の生活費を月給から控除すると既に赤字の家計になってしまい現実的ではない。

また,出産費用の積立て,5年以内には誕生した子の幼稚園等の出費に備えなければならないし,自動車を保有するには車検費用・駐車場代・自動車保険等の出費も想定して積立てを行わなければならず,任意整理または特定調停では相当な困難が予想される。

仮に,住宅ローンについてのみリスケジュールして住宅ローン月額が半減したとしても,それでも生活は相当圧迫されることになり,不測の事態が生じた場合には再度借金等をしなければならなくなってしまう。

そこで,相談者には自宅か自動車の何れかを手放してもらう必要が生じてくる。
本件においては,自宅を優先することにして,個人再生を検討する。 まずは,本人の保有財産の額を算出する。

  1. 退職金見込額 37万5000円
  2. 生命保険の解約返戻金 30万円
  3. 過去に完済した貸金業者からの過払い金 30万円
  4. 預金 1万円
  5. 財形貯蓄 30万円

以上合計128万5000円が現存する財産の額となる。
※保有自動車については,信販会社からの引き上げがあり,マンションについてはオーバーローンの状態であることから財産的価値はない。
小規模個人再生を選択した場合の返済額について検討する。

負債額1500万円を基準にすれば,最低300万円の返済を要する。
この額と財産の額の何れか大きい方を最低支払うため,本件では,
300万円>128万5000円 ということになる。

次に給与所得者等再生を検討する。

可処分所得額は別紙のとおり(資料8),366万0936円を上記に加えて考えると,
366万0936円>300万円>128万5000円ということになる。

さらに,給与所得者等再生のメリットを考察すると,債権者の数も7社あるため,このうちの半数以上が積極的に反対してくるとは現状のところ考えられないため,小規模個人再生で進めることにした。

したがって,最低弁済額は300万円でこれを原則3年間で弁済していくと月額8万3333円程であるため,住宅ローンと加算しても16万6666円の返済となりこれに最低生活費を加えても毎月お金を貯めることが可能になっていく。

 

事例7

相談者F(年齢65歳)女性
年金生活者(夫も年金生活者で2人合計の月額年金収入は18万円程度)

借入状況:
A社  80万円
B社  60万円
C社  70万円
D社  40万円
合計 250万円で以上何れも布団,湿気取りマット,浄水器の訪問販売による割賦債務

割賦契約をした時の状況

ある日,見知らぬ男が,F宅に突然来て,布団の無料診断をしてくれることになった。Fが拒絶するものの,昔のFの知り合いの名前を出してきて,その話にFも乗ってしまい,話し込んでしまった。

その日は帰ったが,翌日にも来訪して,F宅へ上がり込むようになり,布団を見てもらうと,「この布団を使い続けると病気になる」などの甘言を用いて,月額 5000円程度のクレジットで健康によい新しい布団が買えるからという勧誘が始まった。 Fは,それでも「そんな高額な布団は必要がない。いらない。」と拒否するものの,また昔の知人の話を持ちかけてきて,その人もこの布団を購入して毎日ぐっすり眠れると言っているし,呼吸もなんだか楽になってきた等の感想を話され,半ば強引に布団購入に関するクレジットを組まされた。

その後,上記訪問販売員とは異なる男性2名が,この先に来た訪問販売員の名前を挙げて「○○さんから紹介された」ということで,これまた突然F宅に現れ, 今度は,布団をしまっておく押入れが湿気がひどくて,これではせっかくの布団も台無しになってしまうなどの話をし始め,Fは,やはり必要ないと断るものの,結局長時間居座られた揚句に湿気取りマットをクレジットで購入する羽目になった。

さらに,後日,この男性2名が再びF宅を訪れ,今度は来客用の布団を強引に契約させられてしまった。

対処方法

  1. 任意整理OR特定調停?
  2. 個人再生?
  3. 破産?

考えうる対処方法

  1. 割賦販売法38条(支払能力を超える購入の防止)に違反するとともに,到底正常な経済活動とはいえないため,公序良俗に違反し無効(民法90条)。
  2. クーリングオフ(法定書面の不交付・不備)  特定商取引法9条・割賦販売法30条の 6・30条の4
  3. 消費者契約法に基づく取消  不実告知 消費者契約法4条1項1号  不利益事実不告知 消費者契約法4条 2項  不退去 消費者契約法4条3項1号  退去妨害 消費者契約法4条3項2号  クレジット契約の取消 消費者契約法 4条の上記各規定  を各該当理由により5条1項で準用
  4. 詐欺取消  民法96条1項
  5. 錯誤  民法95条
  6. 公序良俗違反  民法90条
  7. 抗弁対抗  割賦販売法30条の4

 

事例8

相談者 夫G(75歳)と妻H(73歳)
夫G 年金(月額8万円)とアルバイト(月額3万円)

負債状況
A社  100万円
B銀行  30万円
C金融  33万円
Dカード 20万円(妻Hの連帯保証債務)
E社   25万円(妻Hの連帯保証債務)
国民健康保険  80万円(月額1万円の分割返済中)
雇用保険償還分 90万円(月額1万円の分割返済中)
以上合計333万円(保証債務除く)

妻H 年金(月額9万円)

負債状況
A社   20万円
B社   40万円
C銀行 120万円
Dカード 20万円(夫Gの保証あり)
E社   25万円(夫Gの保証あり)
F社   21万円
以上合計276万円

夫婦の月額生活費 15万円

事情聴取:
妻に借金の原因を尋ねたところ,はっきりとした記憶がないようであった。
次に,昨日の出来事や今朝食べた食事の内容を聴いたところ,これも曖昧な回答しかもらえなかった。

整理方針:
夫Gの協力も得ながら,取引履歴の開示請求を行い,計算結果によって対処する方法を結論付ける方針をとることとし,妻Hについては,神経内科医の診察を受けるように指示をする。

実際の整理:

夫Gについて
A社   120万円の過払い
B銀行   30万円の残債
C金融  100万円の過払い
Dカード(妻Hの方で対処)
E社  (妻Hの方で対処)
国民健康保険と雇用保険償還分

妻Hについて
事情聴取及び診断書の結果から,成年後見制度を利用しなければ委任契約もできないため家庭裁判所に後見開始の申立てを行う。
A社   130万円の過払い
B社    80万円の過払い
C銀行  100万円の一括(20万円の免除)
Dカード   0円(診断書と事情報告書を提出して免除)
E社    30万円の過払い(夫Gの保証債務も附従性)
F社    10万円の過払い

 

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