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個人民事再生の再生手続開始
(1)はじめに
激増している個人破産は、債権者に分配する資産を持たない個人が免責(債務の弁済の免除)を受けることを目的として申し立てる自己破産事件がそのほとんどを占めています。
しかし、保証人に迷惑をかけたくない人、住宅ローンを約定どおりに支払えないが住宅を手放したくない人、そして、支払不能になっていないが約束どおりの支払ができない人等にとっては、この自己破産の申立ては利用できないでいました。
このような人たちに簡易・迅速な手続で、破産することなく経済生活の再生を図ることを目的として立法されたのが「個人再生手続」です。
民事再生手続開始の申立原因は、「債務者に破産原因たる事実の生ずるおそれがあるとき」(客観的に近い将来、支払不能となる蓋然性が高い)、事業者であれば、「事業の継続に著しい支障を来すことなく弁済期にある債務を弁済することができないとき」(債務者が弁済期にある債務を弁済しようとすると、債務者の事業の継続に重大な支障が生ずることが必然的である)という原因が申立をする際必要となります。
(2)小規模個人再生に関する特則
将来において、継続的にまたは反復して収入を得る見込みがあり、かつ再生債権の総額が5,000万円を超えない個人債務者が利用の要件となります。具体的にどのような方が利用できるのか。
- ラーメン屋さん、喫茶店、パン屋さん、八百屋さん等小規模な個人事業者
- 農業者、漁業者等
- 年金生活者(生活保護者は不可)
- 現在失業中だが、再生計画提出までは就職が内定している
再生計画で定める弁済期は、再生計画認可の決定確定の日から原則3年間でなければならないが、特別の事情があれば5年まで伸長することが可能である。再生計画に基づく計画弁済総額は次の金額を下回ってはならない。
基準債権の総額が
- 100万円未満の場合……その全額
- 100万円以上500万円未満…100万円
- 500万円以上1500万円未満…基準債権額の5分の1
- 1500万円以上3000万円未満……300万円
- 3000万円以上5000万円以下…基準債権額の10分の1
文章で表現すると、基準債権の総額の5分の1または100万円のいずれか多い額を下回ってはならないが、基準債権の総額が100万円を下回っているときはその同額を、基準債権総額の5分の1が300万円を超えるときは300万円を下回ってはならないということです。
また、3000万円以上の場合には,基準債権総額の10分の1を支払うことになるため、最高でも住宅ローンを除き、500万円までは支払う可能性が出てくることを意味します。
再生計画案の可決要件は、再生計画に同意しない旨を書面で回答した議決権者が議決権者総数の半数に満ず、かつその議決権の数が議決権者の議決権の総額の2分の1を超えないことが必要です。(消極的同意)
債権者数と債権額の双方の要件を満たさなくてはなりませんので、1人でも2分の1を超える大口債権者がいれば事前に事情を説明し、その内諾を受けておくほうがよい。
再生計画認可の決定確定により再生手続きが終結するが、やむを得ない事由により再生計画を遂行するのが著しく困難になった場合は、再生計画で定められた最終期限から2年を超えない範囲でその期間を延長するよう再生計画変更の申立をすることができる。それによっても再生計画の遂行が不可能となる場合、ハードシップ免責という手当てがなされている。
この申立は以下の要件を全て満たさなければならない。
- 再生債務者がその責めに帰することのできない事由により、再生計画を遂行するのが極めて困難となった。
- 一般的基準により変更された後の各基準債権に対し、その4分の3以上の弁済を終了している。
- 免責の決定をすることが再生債権者の一般の利益に反するものではない。
- 再生計画の変更をすることが極めて困難である。
この手続きは後ほど述べる住宅資金特別条項を定めた再生債務者も申し立てることができるが、免責決定を得た場合でも抵当権者等には影響がないため、最終的には抵当権等の実行により、自宅を手放さなくてはならないことになるので注意が必要です。
(3)給与所得者等再生に関する特則
上記の小規模個人再生の手続きが多く準用されているが、異なる点は次のとおりです。
利用できる債務者は、「給与またはこれに類する定期的な収入を得る見込みのあるものであって、かつその額の変動の幅が小さいと見込まれる者」である。給与所得者が主な対象者となることに違いはありませんが、全ての給与所得者が対象として申し立てられるものではなく、申立2年以内の年収が概ね年収ベースで5分の1以上の収入の変動があってはならないといえるでしょう。
また過去7年内に免責決定等を得ていたり、以下に説明する可処分所得に基づく最低弁済額要件があったりと、この手続を利用できない場合があります。
債権者の意見を聞いて裁判所は再生計画認可の決定をしますが、小規模個人再生と異なり、債権者の同意は必要ありません。給与所得者等再生の一つのポイントです。
次に債権者の同意は不要なのですが、その代わり計画弁済総額が債務の総額のみを考慮する小規模個人再生と異なり、給与所得者等再生は再生計画案の提出前2年間の再生債務者の収入から、これに対する所得税・住民税・社会保険料に相当する金額を控除した額を2で除した金額から、再生債務者及びその扶養を受けるべき者の最低限度の生活を維持するために必要な1年分の費用の額を控除した額に2を乗じた額と、小規模個人再生の要件を比較して、多い額を計画弁済総額としなければなりません。
大雑把にいうと、手取り収入から最低生活費(政令で定められています。)を控除した2年分の金額を再生計画のなかで定めるということです。
例として、
年収 350万円(所得税・住民税・社会保険料控除後)
最低生活費 320万円(都道府県各地区により異なります。)(2年分)
債務総額 1、000万円
『小規模個人再生を適用して申し立てる場合』
債務総額が1、000万円なので、その5分の1の″200万円″を原則3年で返済していくということになります。
『給与所得者等再生の場合』
350万円×2-320万円=380万円
200万円<380万円となり、この手続きで再生計画を立てる場合″380万円″を原則3年で返済していくことになる。
給与所得者の場合、小規模個人再生か給与所得者等再生かの選択が可能でありますが、上記のようにどちらの手続きを利用するかにより毎月の計画返済額が異なりますので、両制度の特徴をよく知り返済計画が認可され、無事遂行できるようシュミレーションをおこなってみてください。
(4)住宅資金貸付債権に関する特則
《まず住宅資金貸付債権とは》
・個人である再生債務者が所有し、自己の居住の用に供する建物(床面積の2分の1以上に相当する部分が専ら自己の居住の用に供されているもの)の建設、購入、改良に必要な資金の貸付にかかる分割払いの定めのある再生債権であって、その債権またはその債権に係る債務の保証人(保証を業とする者に限り)の求償権を担保するための抵当権等が当該住宅に設定されているものをいいます。
<要件>
- 住宅ローン関係の抵当権以外の担保権設定がないこと
- 低金利時代を反映して、ローンの借り換えが行なわれているがその借り換えの際、その他の債務も一本化し住宅ローン以外の債務もまとめて融資を受けた場合でないこと
- 根抵当権も住宅ローンを担保するものであれば、利用できる。
《抵当権の実行としての競売手続きの中止命令》
住宅資金特別条項を定めた再生計画の認可の見込みがあると裁判所が認めるときは、再生債務者の申立てにより住宅債権に基づく抵当権の実行としての競売手続きの中止を求めることができます。これにより、抵当権に基づく競売手続きが既に行なわれている場合でもその中止を求めることが可能となります。
《住宅資金特別条項の内容》
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期限の利益回復型
これは、再生計画認可決定までに遅滞していた元本・利息・損害金を一般債権の再生計画期間(原則3年)内に住宅ローンの約定元本と利息を合わせて支払っていくものです。 -
最終弁済期延長型
これには要件があります。- 期限の利益回復型と同じように、最後に分割払いをした後の残元本に対する、最後に分割払いをした日の翌日から次回の分割支払予定日までの約定利息及び次回の分各支払予定日から再生計画認可決定の確定日までの遅延損害金の全額を支払うこと。
- 住宅資金特別条項による変更後の最終弁済期が約定最終弁済期から10年を超えず、かつ変更後の最終弁済期における再生債務者の年齢が70歳を越えてはならない。
- 支払方法が概ね以前の住宅資金貸付契約と同程度であること。(弁済期と弁済期の間隔や弁済額等)
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元本据え置き型
一般債権者への再生計画遂行中(原則3年内)は住宅資金債権の元本を一部猶予してもらい、その後猶予されていた元本を期間延長等を利用して返済していくというものです。上記の要件が要求されます。
①②③の順に毎月の返済額は緩やかになっていきます。
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同意型
以上のような要件にとらわれず、債権者の同意を得られれば自由に住宅資金特別条項を定めることができます。
(5)個人再生委員
個人再生委員は、小規模個人再生・給与所得者等再生手続の機関として新たに設置されたものです。(1)再生債務者の収入の状況の調査、(2)再生債権の評価について裁判所を補助すること、(3)再生債務者が適正な再生計画案を作成するために必要な勧告をすること、がその職務として規定されています。
通常の民事再生と異なり、再生計画に基づく履行の監督までは義務を負わない。
小規模個人再生の添付書類一覧表
※ ○…給与所得者 ◇…自営業者 □…共通事項
添付書類
「申立書の添付書類」
□戸籍謄本
□住民票の写し
□債権者一覧表
「陳述書の添付書類」
○申立人の給与明細書(3か月分)
○申立人の源泉徴収票(2年分)
○申立人の課税証明書(2年分)
□受給証明書( 年金分)
□受給証明書( 分)
□受給証明書( 分)
◇申立人の確定申告書(3年分)
◇貸借対照表(3年分)
◇損益計算書(3年分)
◇労働協約
◇就業規則
□賃貸借契約書、住宅使用許可書
□同居人( )の給与明細書
□同居人( )の源泉徴収票
□支払督促正本
□調停(和解)調書正本
□判決正本
□差押命令正本
□仮差押正本
□仮処分命令正本
「財産目録の添付書類」
□通帳 ( 冊)
□残高証明書( 通)
貸付金
□契約書 ( 通)
退職金制度
○退職金見込額証明書
保 険
□保険証書 内訳 生命保険( 通) 損害保険( 通)
その他 ( 通)
□解約返戻金に関する証明書( 通)
有価証券等
□証券のコピー( 通)
□証券の時価が分かる資料( )
自動車
□車検証( 通)
□登録事項証明書( 通)
□車両の時価がわかる資料( )
高価な品物
□20万円以上の買い物を2年以内んいした場合、その領収書・時価のわかる資料等
不動産
□土地登記簿謄本( 物件分)
□建物登記簿謄本( 物件分)
□固定資産評価額証明書( 物件分)
□評価書
売掛金
◇売掛台帳
◇請求書
◇納品書
受取手形
◇手形
住宅資金特別条項を定める場合
□金銭消費貸借契約証書
□償還表
□建物の登記簿謄本
□敷地の登記簿謄本
□建物・敷地以外にも抵当権が設定されている場合その不動産登記簿謄本
□居住部分の床面積がわかる資料
□代位弁済日のわかる資料
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