個人民事再生の詳細(その3)

個人民事再生の詳細(その2)の続きです。

1.特則の概要

小規模個人再生は,将来において継続的にまたは反復して収入を得る見込みがあり,かつ,再生債権の総額が3000万円(平成17年1月1日より5000万円)を超えない個人債務者が,原則3年間で一定の額を支払えば残額の免除が受けられる制度です(221条1項)。

  1. 法人は申立てることができず,個人債務者に限ります。
  2. 主に小規模な個人事業主が主体となるが,サラリーマンでも利用は可能です。
  3. 5000万円には,次のものを除いた残額です。
    • 住宅資金貸付債権の全額
    • 別除権の行使によって弁済を受けることができると見込まれる再生債権の額
    • 再生手続開始前の罰金,科料,刑事訴訟費用,追徴金,過料

    また,利息制限法適用後の残額について判断します。

    手続開始後の利息・損害金も除きます。

    (事例)

    • サラ金・・・700万円
    • 信販会社(オートローン)・・・200万円(自動車の時価100万円)
    • 住宅ローン・・・3000万円(不動産の時価1500万円)
      (住宅資金特別条項を定める場合)
        この場合の再生債権額は,800万円
      (住宅資金特別条項を定めない場合)
        再生債権額は,2300万円
  4. 弁済期間は原則3年間ですが,特別の事情があるときは,5年間まで伸長することができます(229条2項2号)。
  5. 弁 済の総額は,無異議債権及び評価済み債権の総額の5分の1または100万円のいずれか多い額を下回ってはなりませんが,無異議債権及び評価済み債権の総額 が100万円を下回っているときはその額を,無異議債権及び評価済み債権の5分の1が300万円を超えるときは300万円を下回ってはなりません。
    つまり,
    • 基準債権額の総額が100万円未満・・・基準債権総額
    • 基準債権額の総額が100万円以上500万円以下・・・100万円
    • 基準債権の総額が500万円を超え1500万円以下・・・基準債権額の5分の1
    • 基準債権の総額が1500万円を超え3000万円以下・・・300万円
    • ただし,平成17年1月1日より,基準債権額の総額が3000万円を超え,5000万円以下の場合には・・・基準債権額の10分の1

    ※基準債権額とは,再生手続開始前の原因に基づいて発生した請求権から,住宅資金特別条項を定める住宅貸付債権及び別除権の行使によって弁済を受けると見込まれる再生債権を除いた無異議債権と評価済債権の合計額をいう。

    かつ,再生債務者が仮に破産をした場合の予想配当額(清算価値)を上回らなければなりません。

    ※ 清算価値保証

    1. 現金
    2. 預貯金 → 1年分の取引記帳のもの
    3. 不動産 → 不動産評価額証明書の額
       借地権や使用貸借の場合は,不動産業者の査定書(相続の場合注意)
    4. 退職金 → 退職金の8分の1(資料15)
       退職金証明書または退職金社内規定に基づく計算書
    5. 自動車 → 自己所有(自動車ローンなし)場合
       所有者信販会社等(所有権留保)
       原則引上げで売却代金をローン残から控除(担保不足見込額)
    6. 賃貸住宅に住んでいる → 敷金,保証金
    7. 生命保険解約返戻金 → 保険証書記載か保険会社に計算してもらう
    8. 電話加入権 → 1万4000円(現在では、加入権は保証金制度がなくなったため、価値なし)
    9. 株券等有価証券 → 時価額
    10. 財形貯蓄 → 給与明細書で確認
  6. 再生計画案に同意しない旨を書面で回答した議決権者が議決権者総数の半数に満たず,かつ,その議決権の数が議決権者の議決権の総額の2分の1を超えないことを要する。
  7. 再生計画の認可後,やむを得ない事由で弁済が著しく困難になった場合は,再生計画で定められた債務の最終期限から2年を超えない範囲で弁済期間を延長することができます。

 

2.小規模個人再生の要件

ア  個人債務者が「支払不能のおそれ」が要件となります。

自然人の申立て要件は,「破産の原因たる事実の生じるおそれ」(21条1項前段)が存在しなければならない。

こ の「破産の原因たる事実」とは,破産法126条1項の支払不能を意味し,支払不能とは,「債務者が債務弁済の能力(これは単に財産のみで判断するのではな く,信用や労力を含む)が欠乏していることにより,即時に弁済すべき債務を一般的,継続的に弁済することができない客観的状態」を指すものとされている。

つまり,支払不能または支払停止であり,「生ずるおそれ」とは,支払不能や支払停止が確実に到来するのではなく,客観的に近い将来支払不能になる蓋然性が高いことをもって足りるということです。

ま た,事業者については,「事業の継続に著しい支障を来たすことなく弁済期にある債務を弁済できないとき」(21条後段)が申立て原因とされていますが,こ れは,事業者が資金を調達して弁済期にある債務を弁済しようとすると,事業の継続に重大な支障が生じる必然性がある場合とされています。

イ  個人債務者のみが申立権者であり,債権者に申立権はありませんが,通常の民事再生では債権者申立てが可能であり,この申立てがあった場合は,個人再生債務者は,再生手続開始決定までに小規模個人再生を求める旨の申述を行うことができます。

ウ 利用者

将来において継続的にまたは反復して収入を得る見込みがあることが必要です。

具体的には

  1. 給与収入を得ている人(サラリーマン)
  2. 自営業者
    1. 小売業,喫茶店,美容院,クリーニング店等の個人商店で日銭収入がある者
    2. 農業・漁業者など
      農業者は,収入が一定時期に限られていたりしますが,農業者は,少なくとも1年に1回以上は収入が見込まれ,この1回の収入から弁済原資を貯めておくことによって3か月に1回以上の弁済をすることが可能ですから要件に該当します。
      漁業者についても,例えば遠洋業業者も上記と同様に一時弁済原資をプールしておき,これを3か月に1回以上の割合で弁済することは可能と考えられます。
    3. 不動産業者
      安定した収入があるとはいえませんが,一定期間を均せば安定しており,再生計画の履行が可能と見込まれれば要件を満たします。
  3. 不動産賃貸業者
    不動産を有しており,家賃収入で生計を立てている者も,労働の対価といえませんが,要件を満たします。
    しかし,不動産を有しているということにより,清算価値の問題が発生するので,実際には難しいと考えられます。
  4. 年金生活者
  5. アルバイトやパートタイマー
  6. 会社役員

 

エ 利用できない者

  1. 生活保護受給者
    生活保護とは,国が最低限の生活を保障する制度であることを考えると,再生手続による救済は予定していないと考えられます。
  2. 無職
    ただし,就職が決まっており,再生手続開始決定までには収入を得ている見込みがあれば可能です。
  3. 失業保険受給者
    3年間は弁済が継続するため,失業保険での弁済はできないと考えられます。
  4. 専業主婦
    個人再生手続では,夫の収入で弁済をしたりなどはできません。これは,債務者以外の者が債務を引き受けたり,保証人になったりする規定が適用除外となって おり,また,対人主義を採っているため,申立人である個人債務者自身が,継続的に反復して収入がなければならないのです。
  5. 養育費受領者
    養育費は,子供の養育のために支払われる性質のものであるため,個人再生債務者に帰属することはないためであります。

オ 個人債務者が,小規模個人再生を行うことを求める旨の申述をしなければなりません。

この申述は,再生手続開始の申立てをする際に行わなければなりません(221条2項)。

 

3.給与所得者等再生

ア (2)小規模個人再生の要件であるア,イは同様である。

イ 利用者

給与又はこれに類する定期的な収入を得る見込みがある者であって,かつ,その額の変動の幅の小さいと見込まれること(239条1項)。

具体的には,源泉徴収票等の客観的な資料に基づいて過去の収入を把握できる者で,その収入の変動幅が年収単位で20パーセントに満たない程度の者であること(年単位で)。

  1. サラリーマン
  2. アルバイトやパートタイマー
     継続的に勤務している場合は,年収を基準とした場合に,変動幅が少なければ利用することができます。
  3. 歩合給のタクシー運転手
     固定給部分と歩合給部分が併存している業務であっても,変動の幅が少なければ可。
  4. 生命保険外交員
     これも(ウ)と同様に可。
  5. 使用者兼取締役
     変動の幅が少なければ可。
  6. 現在無職
     給与所得者等再生を行うことを求める時点では,「定期的な収入を得る見込みがある者」(239条1項)で足り,再生計画の認可・不認可の判断の時点まで に「定期的な収入を得ている者」(241条2項4号)に該当していればよいため,現在内定等があり将来の安定した収入が確保できそうであれば申立てが可 能。
  7. 兼業農家
     農業収入が収入全体のうち20パーセントを超えることがあり得なければ利用ができる。
  8. 年金や恩給受給者
  9. 不動産賃貸業者
     賃料収入は,給与に類するとはいえず,一般的には認められていない。


ウ 最低弁済額

(ア) 弁済の総額は,無異議債権及び評価済み債権の総額の5分の1または100万円のいずれか多い額を下回ってはなりませんが,無異議債権及び評価済み債権の総 額が100万円を下回っているときはその額を,無異議債権及び評価済み債権の5分の1が300万円を超えるときは300万円を下回ってはなりません。

つまり,

  • 基準債権額の総額が100万円未満・・・基準債権総額
  • 基準債権額の総額が100万円以上500万円以下・・・100万円
  • 基準債権の総額が500万円を超え1500万円以下・・・基準債権額の5分の1
  • 基準債権の総額が1500万円を超え3000万円以下・・・300万円
  • (平成17年1月1日より) ・基準債権の総額が3000万円を超え5000万円以下・・・基準債権額の10分の1

かつ,再生債務者が仮に破産をした場合の予想配当額(清算価値)を上回らなければなりません(清算価値保障の原則)。

(イ)可処分所得

給与所得者等再生手続では,再生債権者の同意が不要であるので,この債権者の同意に代るものとして可処分所得要件(241条2項7号),これをも満たす弁済額でなければなりません。

 

Ⅰ 可処分所得の算出方法(資料1)

(Ⅰ)再生債務者の実質収入額については,再生計画案を提出する前2年間の再生債務者の「給与」または「給与に類する定期的な収入」の額から,所得税,住民税(市県民税)及び社会保険料に相当する額を控除した額を2で除して1年分の収入額を算出します。

そして,その金額から再生債務者及びその扶養を受ける者の最低限度の生活をするために必要な政令で定める1年分の費用を控除し,その額を2倍したものが可処分所得となります(241条2項7号ハ)。

可処分所得={(2年間の収入の合計-所得税-住民税-社会保険料)÷2-最低生活維持費}×2

※最低生活維持費とは,「民事再生法第241条第3項の額を定める政令」によって,生活保護法による保護の基準をベースに,再生債務者及び扶養を受けるべき者の年齢,居住地域,世帯に応じて一律に定められています。

(Ⅱ) 次に,リストラなどによって再生計画案提出前2年間の間に5分の1以上の収入の変動があった場合は,当該事由が生じた時から再生計画案を提出した時までの 間の収入の合計額から,これに対する所得税や住民税,社会保険料に相当する金額を控除した額を1年間あたりの額に換算して計算する(同号イ)。

可処分所得={(変動後の収入-所得税-住民税-社会保険料)÷変動後の日数×365日-最低生活維持費}×2

(Ⅲ) 再生債務者が,再生計画案提出前2年間の途中で給与所得者等再生の要件を満たすこととなった場合(例えば3年間無職あったが再生手続申立時の前に就職して サラリーマンになったようなとき)は,その時点から再生計画案提出までの間の収入合計額からこれに対する所得税,住民税及び社会保険料に相当する額を控除 した額を1年分に換算して算出します(同号ロ)。

可処分所得={(該当後の収入-所得税-住民税-社会保険料)÷該当後の日数×365日-最低生活維持費}×2

 

Ⅱ 具体的な可処分所得の算出(資料の見方について)

2年間の収入合計,所得税額,社会保険料は,過去2年分の源泉徴収票の「支払金額」欄「源泉徴収税額」欄「社会保険料等の金額」欄記載を参照します。

次に,住民税は,過去2年分の課税証明書に記載された額を参照することになります。

もっとも,住民税は,前年度の所得を元に算出された税額が翌年に課税されますので,場合によっては対応関係にない場合もありえます。

http://www1.ocn.ne.jp/~matsuo3/

 

個人民事再生の詳細(その4)に続きます。

 

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