債務整理(総論編)特別調停

債務整理(総論編)第2章の続きです。

特定調停

1 特定調停法2条1項

特定債務者とは・・・①金銭債務を負っている者,②支払不能に陥るおそれのあるもの若しくは事業の継続に支障を来たすことなく弁済期にある債務を弁済することが困難であるもの,③または債務超過に陥るおそれのある法人をいう。

※個人,法人を問わず要件に合致すれば申立て資格があるが,債権者申立てはない。
※借入先が1社であっても,上記に該当すれば可能。
※相手方が一部の債権者だけの申立ても認められる。
しかし,この場合に,一部債権者を除くことにより,公正・平等な解決が図られるか問題点が残ります。

2 多数債権者がいる場合の処理

民事調停法3条によれば,調停申立ての管轄は,「相手方の住所,居所,営業所若しくは事務所の所在地を管轄する簡易裁判所又は当事者が合意で定める地方裁判所若しくは簡易裁判所の管轄とする。」との規定があるが,特定調停法4条により一括処理が可能です。

3 民事執行手続の停止(特定調停法7条)

特定調停が係属した裁判所(特定調停の申立後)が,特定債務者の財産に対して実行されている執行手続きの停止を求める制度です。実務上は,特定調停の申立てと同時にこの民事執行停止の申立てを行う(特定調停の申立てに先行して執行停止の申立てはできない)。

《立担保》

  1. 判断基準
    民事調停規則では,執行停止を命ずる場合,必ず債務者に対して担保を立てさせますが(民事調停規則6条1項),特定調停では担保提供の資力のない債務者に も経済的再生の途が広く開かれるように,裁判所は裁量により担保不要で執行停止を命ずることができる建前となっています。
  2. 実務の運用
    1. 無担保で命じられた例は極めて少ないですが,以下の例が報告されています。
      1. 他の債権者を出し抜いて債権回収を図ろうとして,債務者からの債務整理の通知を受けた直後に,公正証書に基づき給与債権を差押えた事例
      2. ほとんどの債権者が任意整理や特定調停に応じる旨の意向を示しているのに,事前交渉を強硬に拒絶し,公正証書による給与債権の差押の申立てをした事例
    2. 執行停止の効果
      執行命令を得た後,停止命令正本を執行機関に提出すれば,当該執行手続は特定調停終了までの間,一時的にその進行を停止します。
      なお,この停止命令は,執行手続が当然に停止されるものでないことに注意しなければなりません。 

4 調停前の措置命令

現状の変更または物の処分の禁止その他調停の内容たる事項の実現を不能にしまたは著しく困難ならしめる行為の排除であり,措置命令の対象者は事件の相手方並びに利害関係人です。

《実務》

実務では,特定の商工ローン業者と超高金利業者を対象者とする約束手形金・小切手の取立等の禁止を求めるものがほとんどです。

 

5 調停に代わる決定(民事調停法17条)

調停が成立する見込みのないときに,裁判所の職権で決定される。

≪意義≫

本条は,調停が成立する見込みがない場合において,事案により,調停裁判所に,調停の解決のために必要な決定をなし得る権限を認めた規定である。

立法趣旨は,「当事者の一方の頑固な恣意により,または僅かな意見の相違によって,調停が不成立に終わるならば,それまでの手続きは徒労に帰し,調停制度の実効を収められないことになる。

このような場合に,裁判所が調停条項に代わるものとして事件の解決のために必要な裁判をなし得る制度は,旧法から採用されており(鉱害調停を除き),この 裁判が抗告をもってのみ不服を申し立て得る強制解決の手段であることから,いわゆる調停制度における「伝家の宝刀」として運用されていた。

裁判所が従来の調停に経過に照らし,当事者双方のために衡平にかない,紛争解決のために適切妥当と考えるところを,このような裁判の形で明示することは, 事実上当事者に反省の機会を与え,これを機縁として紛争が終局的に解決される場合も多いと考えられるので,本法においてもこの制度を維持することとなった のである。」(最高裁民事局・逐条解説80頁)

≪要件≫

  1. 裁判所が相当と認めるとき
  2. 調停委員会の意見を聴いて
  3. 当事者双方の衡平を考慮し
  4. 一切の事情を見て
  5. 当事者双方の申立ての趣旨に反しない限度で決定される。

 

6 調停不成立

調停申立ての「取下げ」ではなく,「調停不調」にしてもらう。=弁済のための努力の結果を残す。業者の中には,自分たちの都合のよい弁済案を押し付け, 「調停が不調になると元に戻るぞ。」と強引な和解案を飲ませようと脅迫まがいの言動をする業者も一部あるようですが,次の対処を行う。

  1. 不調後の不当な取立てには何度でも行政処分を求める。
  2. 業者から出た計算書を謄写請求して,残がなければ支払いを拒絶。
  3. 再度の特定調停の申立て(その間にお金を貯める)。

無理な合意は絶対に避ける(弁済計画案以上の支出を強要される場合には,合意をするより不調の方がよいし,そもそも1回目より返済が困難である。さらに強制執行をうける虞がでてくる)。

 

7 特定調停申立ての選択基準と問題点

  1. メリット
    1. 簡易裁判所で調停委員を介して業者と返済計画について交渉できる。
    2. 取引履歴開示義務が明文で認められている。
    3. 強制執行の停止手続の特則がある。
    4. 調停前の措置命令を利用できる。
    5. 本人でもできる(請求停止の効力が本人でも得られる)。
    6. 費用が低廉である。
    7. 期日管理と資料管理を裁判所が行うため管理が容易である。
    8. 保証人がいる場合,主債務者と同一の申立書で申立てが可能である。
  2. デメリット
    1. 申立書の作成と提出に時間と労力を要する。
    2. 任意整理と比較して和解内容が有利とはいえない。
      1. 将来利息について
        特定調停の実務では,将来利息は原則としてつけないものの,銀行系金融機関における長期ローンや企業対企業の案件,担保付ローン,公正証書等がある場合では将来利息を付して調停が成立する場合もある。
      2. 遅延損害金について
        未払いを想定すると,約定期日の翌日を起算日として合意成立までの遅延損害金が付加される。
    3. 支払期間が3ないし5年間の長期間に及ぶため,その間に失業や病気などで支払いが停止すると強制執行を受ける可能性がある。
    4. 支払い不能に陥った場合,再生や破産の手続に変更せざるを得ないため2重の手間がかかる。
    5. 利息制限法に基づく再計算
      ※取引当初からの計算をしたか?
    6. 相手業者の不開示
      ※資料を見せない調停委員が多いため,不開示であったのかどうか不明。民事調停規則23条により調停記録の謄写をして,精査する必要がある。調停委員会に対して,文書提出命令の発令を促す。
    7. 返済回数の制限
    8. 保証人の強制
    9. 債務名義化
    10. 過払金が発生している場合,特定調停手続内では難しいのが現状。
  3. 一般基準
    1. 借りてからの期間が長期間である。
    2. 借金総額がそう多くはない。
    3. 債権者数が概ね5~10社程度である。
    4. 債務者が,比較的収入が多く,仕事も安定している。
    5. まとまった返済原資が用意できる。
    6. 自営業者が営業を継続しながら借金を整理する。
    7. 債務者が不動産等の財産を所有している。
    8. 免責不許可事由が著しく大きく破産の選択が困難である。
    9. 本人がある程度,過去の取引を把握している。
  4. 全国での特定調停の問題点
    1. 裁判所によっては,引き直し計算を行わないことや,そもそも支払義務のない第三者や家族を保証人にさせられる例も報告されています。
    2. 業者に言われるがままに一括返済を半強制する調停委員もいる。
    3. 申立人の夫の同意書を調停委員が要請した。
    4. 原則36回払いだから,それ以上の分割弁済の話は自分で交渉してみては・・・。 

8 実際の主な流れ(資料2)

調停の申立て
→約1か月移行先に特定債務者本人と調停委員との面談(負債状況,支払原資の確認作業等)
→さらに約1か月後以降に債権者を交えた調停期日(債権者は出頭せず,上申書また意見書などで言い分を書面で提出することも多く,債権者の全員が参加するとは限らない。また17条の決定を求める旨の上申書を出す債権者もいる)
→調整がつかない場合にはもう1期日
→合意・調停成立・不成立・17条決定で終結


債務整理(総論編)第3章に続きます。

 

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