債務整理(総論編)第2章

債務整理(総論編)はじめに~第1章の続きです。

第2章 手続き振り分けの前提問題として

第1 破産手続き

1 千葉地方裁判所の運用等

(1)千葉地裁本庁の統計

  平成14 平成15 平成16 平成17 平成18 平成19
(6月まで)
破産事件 4097 4709 3842 2327 1766 717
管財事件 286 479 594 523 395 208
管財率 6.98 10.17 15.46 22.48 22.37 29.01
 

(2)千葉地裁の運用基準

管財事件への振分基準

  • 法人破産
  • 法人代表者
  • 個人事業者(ただし,事業の規模,負債額等によっては同廃も可能)
  • 負債総額が5000万円以上の場合(ただし,保証債務,住宅ローン債務を除く)
  • 偏頗弁済がある場合(否認権行使の見込まれる場合)
  • 財産清算の必要性がある場合(不動産を所有している場合,預貯金や生命保険解約返戻金,株式,退職金見込額の8分の1などの換価可能財産が20万円を超える場合=これら金員から予納金を納める)
  • 生命保険について,解約を強制されるわけではない(高齢者の場合等)。

解約しない場合には積立てを行い,配当等に回す。

  • 不当利得返還請求権の行使が可能な場合
  • 免責調査型(2度目の破産も含む)
  • 差押解除型(給与等の差押の場合)

 

2 破産選択の考察

  1. 資格制限
  2. 保有財産の有無
  3. 免責不許可事由の存在
  4. 自宅保有の必要性

 

3 免責が認められても支払義務の残るもの

  1. 租税等の請求権
  2. 破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権
    判例として,「月収額から生活費等を控除すると既に負担している借入金債務を返済できない状況にもかかわらず,それを秘して発行を受けたクレジットカード を利用して破産申立て前に商品等を購入し,その後破産宣告及び免責決定を受けた債務者について,商品等の購入の際に立替金債務の支払いが滞ることを十分に 認識していたと推認し,旧破産法366条ノ12第2号の悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求が認められた。」(最判平成12.1.28金商1093 号15頁)。
  3. 破産者が故意または重大な過失により他人の生命または身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権
  4. 夫婦間の協力及び扶助義務(民752条),婚姻から生ずる費用の分担の義務(民760条),子の監護に関する義務(民766条・749条・771条・788条),親族間の扶養義務(民877条から880条)
  5. 雇用関係に基づいて生じた使用人の請求権及び使用人の預り金の返還請求権
    給与債権や退職金債権などをいう。
  6. 破産者が知りながら債権者名簿の記載をしなった請求権(破産手続開始決定があったことを知っていた債権者を除く)
    免責に関する意見陳述の機会を奪われたため
  7. 罰金等の請求権
    制裁的側面を重視して

 

4 免責不許可事由

  1. 債権者を害する目的で破産財団に属し,または属すべき財産の隠匿,破壊,債権者に不利益な処分その他破産財団の価値を不当に減少させる行為をしたこと
  2. 破産手続の開始決定を遅延させる目的で,著しく不利益な条件で債務を負担し,または信用取引により商品を買い入れてこれを著しく不利益な条件で処分したこと(クレジットを利用した換金等)
  3. 特定の債権者に対する債務について,当該債権者に特別の利益を与える目的または他の債権者を害する目的で,担保の供与または債務の消滅に関する行為であっ て,債務者の義務に属せず,またはその方法もしくは時期が債務者の義務に属しないものをしたこと(偏頗弁済等) 破産原因たる事実を債務者が知っていたことを要しない。そのため客観的に支払不能であれば該当する。また,これらの行為を他の債権者を害する目的で行った 場合には,「特定の債権者に対する担保の供与等の罪」となる(破産法266条)。
  4. 浪費または賭博その他の射幸行為をしたことによって著しく財産を減少させ,または過大な債務を負担したこと
  5. 破産手続開始の申立てがあった日の1年前の日から破産手続開始の決定があった日までの間に,破産手続開始の原因となる事実があることを知りながら,当該事 実がないと信じさせるため,詐術を用いて信用取引により財産を取得したこと (詐術の解釈として,「破産者が単に支払不能等の破産原因事実があることを黙秘して相手方に進んで告知しなかったことのみでは「詐術ヲ用ヒ」(旧破産法 366条ノ9第2項)に該当しないとする裁判例あり(大阪高決平成2.6.1判時1370号70頁)。」
  6. 業務及び財産の状況に関する帳簿,書類その他の物件を隠匿し,偽造し,または変造したこと
    なお,これらの行為を債権者を害する目的で行った場合,「業務及び財産の状況に関する物件の隠滅等の罪」(破産法270条)に該当する。
  7. 虚偽の債権者名簿を提出したこと
  8. 破産手続きにおいて裁判所が行う調査において,説明を拒み,または虚偽の説明をしたこと
  9. 不正の手段により,破産管財人,保全管理人,破産管財人代理または保全管理代理の職務を妨害したこと
  10. 次の事由の何れかがある場合において,それぞれ定める日から7年以内に免責許可の申立てがあったこと
    1. 免責許可の決定が確定したこと・当該免責許可決定の確定の日
    2. 給与所得者等再生が遂行されたこと・当該再生計画認可決定の確定の日
    3. ハードシップ免責が確定したこと・当該免責決定に係る再生計画認可決定確定の日
  11. 破産法40条1項1号(説明義務),41条(重要財産開示義務),250条2項(免責についての調査協力義務)に規定する義務その他この法律に定める義務に違反したこと
    ※ただし,以上いずれに該当しても裁量免責決定はあり得る(破産法252条2項)。 

 

第2 個人民事再生手続き

要件として,継続的にまたは反復して収入を得る見込みがあり,再生債権の総額(住宅資金貸付債権,別除権の行使によって弁済を受けることができると見込ま れる再生債権の額等は除く)が5000万円以下の者が利用可能。 (給与所得者等再生の場合においては,さらに,給与又はこれに類する定期的な収入を得る見込みがある者であって,かつ,その額の変動の幅が小さいと見込ま れる者)※現在無職でも,将来,継続的に収入を得る見込みがあれば可能

 

(1)小規模個人再生の利用者

利用者 将来において継続的にまたは反復して収入を得る見込みがあることが必要です。
具体的には

  1. 給与収入を得ている人(サラリーマン)
  2. 自営業者
    1. 小売業,喫茶店,美容院,クリーニング店等の個人商店で日銭収入がある者
    2. 農業・漁業者など 農業者は,収入が一定時期に限られていたりしますが,農業者は,少なくとも1年に1回以上は収入が見込まれ,この1回の収入から弁済原資を貯めておくこと によって3か月に1回以上の弁済をすることが可能ですから要件に該当します。 漁業者についても,例えば遠洋業業者も上記と同様に一時弁済原資をプールしておき,これを3か月に1回以上の割合で弁済することは可能と考えられます。
    3. 不動産業者 安定した収入があるとはいえませんが,一定期間を均せば安定しており,再生計画の履行が可能と見込まれれば要件を満たします。
  3. 不動産賃貸業者 不動産を有しており,家賃収入で生計を立てている者も,労働の対価といえませんが,要件を満たします。 しかし,不動産を有しているということにより,清算価値の問題が発生するので,実際には難しいと考えられます。
  4. 年金生活者
  5. アルバイトやパートタイマー
  6. 会社役員

 

利用できない者

  1. 生活保護受給者 生活保護とは,国が最低限の生活を保障する制度であることを考えると,再生手続による救済は予定していないと考えられます。
  2. 無職 ただし,就職が決まっており,再生手続開始決定までには収入を得ている見込みがあれば可能です。
  3. 失業保険受給者 3年間は弁済が継続するため,失業保険での弁済はできないと考えられます。
  4. 専業主婦 個人再生手続では,夫の収入で弁済をしたりなどはできません。これは,債務者以外の者が債務を引き受けたり,保証人になったりする規定が適用除外となって おり,また,対人主義を採っているため,申立人である個人債務者自身が,継続的に反復して収入がなければならないのです。
  5. 養育費受領者 養育費は,子供の養育のために支払われる性質のものであるため,個人再生債務者に帰属することはないためであります。

 

(2)給与所得者等再生の利用者

  1. サラリーマン
  2. アルバイトやパートタイマー
    継続的に勤務している場合は,年収を基準とした場合に,変動幅が少なければ利用することができます。
  3. 歩合給のタクシー運転手
    固定給部分と歩合給部分が併存している業務であっても,変動の幅が少なければ可。
  4. 生命保険外交員
    これも(ウ)と同様に可。
  5. 使用者兼取締役
    変動の幅が少なければ可。
  6. 現在無職
    給与所得者等再生を行うことを求める時点では,「定期的な収入を得る見込みがある者」(239条1項)で足り,再生計画の認可・不認可の判断の時点までに 「定期的な収入を得ている者」(241条2項4号)に該当していればよいため,現在内定等があり将来の安定した収入が確保できそうであれば申立てが可能。
  7. 兼業農家
    農業収入が収入全体のうち20パーセントを超えることがあり得なければ利用ができる。
  8. 年金や恩給受給者
  9. 不動産賃貸業者
    賃料収入は,給与に類するとはいえず,一般的には認められていない。
  平成14 平成15 平成16 平成17 平成18 平成18
(6月まで)
平成19
(6月まで)
給与所得者等再生 104 82 62 50 32 18
小規模個人再生 119 259 259 403 426 206 222
 

1 小規模個人再生と給与所得者等再生の対比


  小規模個人再生 給与所得者等再生
対象者(原則) 個人事業主等 サラリーマン等(年金や恩給受給者・パート含む)
債権者の異議 頭数の半数,かつ,議決権総数の過半数の積極的な異議がなければ可決 債権者の消極的同意不要(裁判所の認可のみ)
住宅資金貸付債権 特則可(※セカンドハウスは不可) 特則可(※セカンドハウスは不可)
返済総額 債権の額の5分の1か清算価値の額の大きい方の額を原則3年で弁済(注1) 左に加え,可処分所得(注2)の2年分と比較して一番大きい方の額を原則3年で弁済
ハードシップ免責 あり あり
再度の申立て 何度でも事実上可能 認可確定後7年間は同手続きは不可
その後の破産 不認可事由とならない 認可確定から7年間は免責不許可事由に該当
過去に破産免責を得ている場合 不認可事由とならない 免責確定から7年間は不可
資格制限 なし なし
破産法上の免責不許可事由 利用可 利用可
 

(注1)
再生債権額が100万円未満=その額
再生債権額の5分の1が100万円以下=100万円
再生債権額が500万円を超え1500万円以下=5分の1
再生債権額が1500万円を超え3000万円以下の場合=300万円
再生債権額が3000万円を超える場合=10分の1の額

(注2)
①再生計画案提出前2年間の定期的収入の合計額
②再生計画案提出前2年間の所得税,県税,住民税,社会保険料の額
③最低限度の生活費で政令で定める額 可処分所得の下限=((①-②)÷2-③)×2

 

2 住宅資金特別条項

住宅資金貸付債権とは,住宅の取得のため(土地の取得も含む)の抵当権である。
後順位に住宅資金貸付債権以外の担保権の設定があれば利用不可。
保証会社から代位弁済を受けている場合でも6か月以内であれば可能。
金融機関との事前協議が重要である。

住宅資金貸付債権に関する特則(法第10章)

住宅資金貸付債権手続は,住宅ローンの支払対処の制度であり,小規模個人再生,給与所得者等再生だけでなく,通常の民事再生手続を選択した個人も利用できる制度であります。

今までの通常民事再生手続では,前述のとおり,抵当権等の担保権には別除権が与えられ,手続の開始後も自由に担保権を実行することができること(53条) とされており,また,再生計画案が認可されても,その効力は抵当権等の担保権には及ばないこととされております(177条2項)。このため,住宅ローンを 抱えた債務者は,再生手続外で住宅ローン債権者の個別の同意を得ない限り担保権の実行を回避することができませんでした。

そこで,住宅資金貸付債権に関する特則において,個人債務者が,生活の基盤である自宅を手放さずに経済的再生を果たすことを可能にするため,特別な扱いをする必要性からこの制度が誕生したのです。

この制度は,再生計画の中に既に弁済期が到来している住宅ローン債権の弁済期について新たに条項を盛り込むことができるようになり,①期限の利益回復型 (199条1項(原則型)),すなわち債務不履行部分を再生計画期間内に支払って約定返済に戻るようにするものと,②リスケジュール型(同条2項(最終弁 済期延長型)),すなわち①の原則型で遂行できる見込みがない場合には10年以内で債務者が70歳以内の期限まで弁済期を延長することができる,③(同条 3項(元本据置型)),一定期間(一般再生債権の弁済期間)元金の一部を据え置くものや④同意型のものが予定されております。

住宅資金特別条項を設けた再生計画案の決議においては,住宅ローン債権者や保証会社は議決権を有しないものとされており(201条1項),その代わり,裁判所は,住宅ローン債権者の意見を聴取しなければならないとされております(同条2項)。

そして,住宅資金特別条項を定めた再生計画案が無事認可されたときは,その効力は自宅に設定された抵当権等にも及び(203条1項),再生債務者が再生計画に基づく弁済を継続していく限りにおいては自宅に設定されている抵当権等の実行を回避することができるのです。

※保証人等への影響
特別条項による権利変更は保証人や物上保証人に対しても効力を及ぼすこととされております。

 

第3 任意整理と特定調停の対比

  任意整理 給与所得者等再生
手続き追行者 実務家 本人(または実務家)
費用 着手金と報酬金が必要 本人が行えば低廉(収入印紙500円と予納郵券代)
取立の中止 実務家の受任通知 本人が事件番号を債権者に連絡
実施場所 実務家の事務所

簡易裁判所(相手方の本店・営業所を管轄する)

申立書を提出する日もカウントすれば最低でも4回程度以上は裁判所に出頭しなければならない
債務名義化 しない する
将来利息 免除 免除(一部強硬な債権者には付加する場合あり)
遅延損害金 免除 約定支払日の翌日から調停成立日までの損害金が付加される
過払い金の回収 債務整理と同時に可能 特定調停の中では不可
元本カット 本人の生活状況により可能 稀に可能
信用情報機関への登録 あり あり
履行の管理 実務家事務所において可能 本人の自己管理
 

債務整理(総論編)特別調停に続きます。

 

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