個人民事再生の詳細(その1)

1 はじめに

(1)「個人債務者再生とは」

個人債務者再生手続の創設

平成12年の改正によって,通常の民事再生手続の特則として①小規模個人再生に関する特則②給与所得者等再生に関する特則③住宅資金貸付債権に関する特則を設けました。

これにより,従来の自己破産,特定調停,任意整理しかなかった債務整理の方法に一つメニューが加わったことになります。

(2)「平成13年4月1日施行当時の法制の問題点」

経済的に破綻に陥った個人債務者が生活を再建するための法的倒産処理手続には,破産法上の破産免責手続,一般民事再生手続がありましたが,これらには次のような問題点がありました。

① 破産免責手続

個人債務者にとって全財産の清算が行われる結果,自宅を保持することができない,専門資格や取締役の資格喪失,破産者という烙印を押されるため勤務先に知れると事実上の解雇となってしまう場合もありえるという社会的不利益が不都合としてありました。

また,債権者にとっても債務者の多くは配当原資となる財産を有していないため債権回収が事実上0円という問題点も指摘されていました。

② 民事再生(一般)手続

こ れは,個人再生よりも1年程度前に成立したものですが,この手続は,法人・個人・事業者・非事業者を問わない再建型倒産処理手続であり,債権者の利益を保 護しつつ,債務者の再建をしやすくしたものとなっていますが,主に中小企業以上の規模の事業者を念頭に構想されたものであるため個人債務者にとっては手続 の負担が重くほとんど利用が困難とされていました。

また,担保権は破産の場合と同様に,別除権(53条)とされているため,住宅ローンを抱えた個人債務者にとっては自宅を保持できないという問題点もありました。

③ 実務上の問題点

次に実務上は,特定調停や任意整理によって多重債務者の再生を図ることも多く行われてきましたが,これらの手続は債権者との間での個別の合意が必要であり,多重債務者の残元本総額を分割で支払ができる状況になければ,合意は困難でした。

また,残元本を分割払いにできる債務者であっても,一部の業者が利息の減免に応じなかったりして,再建を図ることが困難になる場合もありました。

そこで,住宅ローンなどの債務を抱えた多重債務者が,破産せず,自宅を保持しながら再生することができ,かつ,債権者にとっても,債務者が破産したときよりも多くの債権回収を図ることができる新たな倒産処理手続が個人にも必要ということで成立しました。

2  小規模個人再生に関する特則(法第13章第1節)

小規模個人再生手続とは,継続的収入の見込みがある「個人」で,無担保債務総額5000万円以下の者が利用できる個人債務者再生の1つの手続ですが,この申立てができるのは債務者からのみとされています(注:平成17年1月1日より,5000万円まで拡張された)。

申 立時には債権者一覧表を作成・提出することを要します(221条3項)が,正確な債権額が不明な債権者については,とりあえずの金額を記載して,この額に ついて異議を述べることがある旨を併記することができます(221条4項)(これを併記しておかないと債権者一覧表に記載した金額について後日異議を述べ ることができません。226条1項但書)。

費用対効果を勘案して,小規模個人再生の機関としては,通常の民事再生のような監督委員や調査委 員は置かれず,代りに個人再生委員が置かれることになりますが,この個人再生委員は,再生債権評価の申立てがあった場合を除き必要的な機関ではなく,裁判 所が必要と認めるときに選任されます(223条1項)。

手続開始後,債権者は再生債権を届け出ますが,届ける義務まではなく,債権届出期間内に何も届出をしないと債務者が申立時に提出した債権者一覧表の記載内容で届出をしたものとみなされます(再生債権のみなし届出。225条)。

債 務者及び届出再生債権者は,届出再生債権に対して異議を述べることができ(226条),異議を述べられた債権者は異議に納得できない場合は評価の申立てを なし(227条1項。なお有名義債権に対する異議の場合,異議者が評価の申立てをしなければならない同項但書),個人再生委員に調査させた上で裁判所が当 該再生債権額を評価します。異議のなかった債権と評価済債権は,手続内で確定します。

再生計画案は,債務者が作成して提出をします。再生計画は,弁済期が3か月に1回以上,原則3年間の弁済をする内容でなければなりません。

提出された再生計画案は,各再生債権者に送られ,書面による決議を受けることになります。議決権を有する債権者の消極的同意,すなわち,不同意と回答した者が頭数で半数未満かつ債権額で2分の1以下により可決とみなされます(230条5項)(消極的同意)。

通常の民事再生手続ですと,議決権者の過半数であって,議決権者の議決権の総額の2分の1以上の議決権を有する者の同意が必要となります(積極的同意)。

ま た,再生計画で支払うべき弁済額が弁済の基準となる債権の5分の1又は100万円のうちいずれか多い額(ただし,債権総額が100万円未満の場合はその全 額,上限300万円)を下回っていたり,破産の場合における配当額を下回っているときは再生計画は認可されません(231条2項5号,230条2 項,174条2項4号,241条2項2号)(注:平成17年1月1日より,5000万円まで拡張される結果,3000万円を超え5000万円以下の場合に おいては,10分の1を下回ることができない)。

認可決定の確定により手続は終了し,再生計画に基づく履行は,債務者自らが行い裁判所や再生委員がその後も関与することはありません。

3  給与所得者等再生に関する特則(法13章第2節以下)

給 与所得者等再生手続とは,小規模個人再生の対象者中「給与またはこれに類する定期的な収入を得る見込みがある者で,その額の変動の幅が小さいと見込まれる 者」(典型はサラリーマン)が,小規模個人再生とともに自由に選択して利用できる手続ですが,小規模個人再生のさらなる特則として位置づけられております (239条)。

この手続においても裁判所は書面による債権者の意見を聴きますが,それには拘束されず,再生債権者の決議の制度はありませ ん。そして,法定の弁済総額(生活保護基準を参考にして定める生活費及び所得税等を収入から控除した額を可処分所得とし,この可処分所得2年分以上の額) を原則3年で弁済していくことになります(241条2項7号)。

4  住宅資金貸付債権に関する特則(法第10章)

住宅資金貸付債権手続は,住宅ローンの支払対処の制度であり,小規模個人再生,給与所得者等再生だけでなく,通常の民事再生手続を選択した個人も利用できる制度であります。

今 までの通常民事再生手続では,前述のとおり,抵当権等の担保権には別除権が与えられ,手続の開始後も自由に担保権を実行することができること(53条)と されており,また,再生計画案が認可されても,その効力は抵当権等の担保権には及ばないこととされております(177条2項)。このため,住宅ローンを抱 えた債務者は,再生手続外で住宅ローン債権者の個別の同意を得ない限り担保権の実行を回避することができませんでした。

そこで,住宅資金貸付債権に関する特則において,個人債務者が,生活の基盤である自宅を手放さずに経済的再生を果たすことを可能にするため,特別な扱いをする必要性からこの制度が誕生したのです。

こ の制度は,再生計画の中に既に弁済期が到来している住宅ローン債権の弁済期について新たに条項を盛り込むことができるようになり,①期限の利益回復型 (199条1項(原則型)),すなわち債務不履行部分を再生計画期間内に支払って約定返済に戻るようにするものと,②リスケジュール型(同条2項(最終弁 済期延長型)),すなわち①の原則型で遂行できる見込みがない場合には10年以内で債務者が70歳以内の期限まで弁済期を延長することができる,③(同条 3項(元本据置型)),一定期間(一般再生債権の弁済期間)元金の一部を据え置くものや④同意型のものが予定されております。

住宅資金特別条項を設けた再生計画案の決議においては,住宅ローン債権者や保証会社は議決権を有しないものとされており(201条1項),その代わり,裁判所は,住宅ローン債権者の意見を聴取しなければならないとされております(同条2項)。

そして,住宅資金特別条項を定めた再生計画案が無事認可されたときは,その効力は自宅に設定された抵当権等にも及び(203条1項),再生債務者が再生計画に基づく弁済を継続していく限りにおいては自宅に設定されている抵当権等の実行を回避することができるのです。

① 保証人等への影響

特別条項による権利変更は保証人や物上保証人に対しても効力を及ぼすこととされております。

② 保証会社の代位弁済

住宅ローンは保証会社の保証で組まれている場合も多く,この場合,個人債務者が住宅ローンの支払いを何度か遅滞した場合,保証会社は住宅ローン債権者の求めに応じて保証債務を履行して代位弁済することになります。

この場合に,保証会社が,保証債務を全部履行した日から6か月以内に再生手続の申立てがされたときに限り,住宅資金特別条項を定めることができるとされています(198条2項)。

そ して,住宅資金特別条項を定めた再生計画が認可され確定した場合には,保証債務は最初から履行されなかったものとみなされ(巻き戻し),住宅ローン債権者 は元の債権者に復帰し,保証会社が銀行等に支払った金員は保証会社に返還されて元の住宅ローン債権者が引き続き債権者として債権を管理していくことになり ます(204条)。


個人民事再生の詳細(その2)に続きます。

 

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