個人民事再生の詳細(その5)

個人民事再生の詳細(その4)の続きです。

実務上問題になる債権

1 滞納家賃

再生手続開始前から賃料を延滞していた場合には,債権者の賃料請求権は再生手続開始前の原因に基づくものであるから,再生債権(再生手続きによってしか弁済をすることができない)といえ,再生手続開始前には滞納がなく,手続開始後に滞納分が発生した場合には,119条2号の「再生手続開始後の再生債務者の業務,生活並びに財産の管理及び処分に関する費用の請求権」ということで,共益債権となり再生手続によらずして弁済をすることが可能。

→再生債権に該当した場合は,保証人または第三者弁済も考慮

2 養育費

 再生手続開始前に履行期が到来したもの → 再生債権

 再生手続開始後に履行期が到来するもの → 共益債権

※平成16年度の民事再生法改正により,次の請求権については,当該再生債権者の同意がある場合を除いて,権利の変更等を行うことができない。

  1. 再生債務者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権
  2. 再生債務者が故意または重過失により加えた人の生命または身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権
  3. 次の義務に係る請求権
    1. 民法752条の夫婦間の協力および扶助義務
    2. 民法760条の婚姻から生ずる費用の分担義務
    3. 民法766条の子の監護に関する義務
    4. 民法877条から880条までの規定による扶養義務

3 電気・ガス・水道・電話代等

再生手続開始申立前までの発生した分 → 一般優先債権(民法306・310条)

再生手続開始申立後の分 → 共益債権(119条2項)

従って,何れも随時弁済をすることが可能

4 リース料債権

再生債務者が個人タクシーや宅配の請負業,飲食店などを営んでいる場合,この個人事業者は事業に必要な自動車や冷蔵庫をリース契約により使用している場合がある。

しかし,通常のリース契約において,リース料の支払いを遅滞した場合や民事再生の申立てをした場合,リース物件を引き上げて,これを換価し,リース料の弁済に充てられることになります(別除権付再生債権)。

そうすると,事業継続に必要な商売道具を失う結果,廃業等をしなければならない事態も想定されます。

このような場合に,リース料債権者と弁済協定を締結して,事業を継続していく必要があります(資料3)。

この根拠は,119条2項「再生手続開始後の再生債務者の業務,生活並びに財産の管理及び処分に関する費用の請求権」に該当する結果共益債権となるということです。

しかし,弁済協定を安易に締結することは,85条1項(再生手続によってのみ弁済をすることができる)に反する結果,不認可事由に該当する場合もありえるため,事前に裁判所に対して上申しておく必要があります。

なお,サラリーマンが自動車を通勤に使用するという理由では不可。

再生手続開始決定の要件

次の事由に該当すれば棄却されます。

  1. 費用の予納がされていない
  2. 既に破産手続きが開始されていて,その手続によることが債権者一般の利益に適合するとき
  3. 再生計画案の作成若しくは可決,認可の見込みがないことが明らかなとき
  4. 不当な目的若しくは不誠実な申立て
  5. 申立てをした債務者に破産の原因たる事実(支払不能)に陥るおそれが客観的にない場合。ただし,事業者の場合は,事業の継続に著しく支障を来たすことなく弁済期にある債務をできないとき

以上が通常の民事再生でも同様な要件で、次に各特則の要件を述べると

小規模個人再生の場合(上記の事由も含めて)

  1. 将来において継続的または反復して収入を得る見込みがない
  2. 再生債権の総額(再生手続開始前の罰金等,別除権として扱われる債務がある場合は,担保権で回収できる額,住宅資金特別条項を定めようとする場合で住宅資金貸付債権の額を除く)が,3000万円(平成17年1月1日より5000万円)を超えているとき

次に給与所得者等再生については,通常の民事再生の特則であると同時に小規模個人再生についての特則となるので上記に加えてさらに

  1. 給与またはこれに類する定期的な収入を得る見込みがあり,かつ,その収入の幅の変動が小さいと見込まれない
  2. 給与所得者等再生手続を過去に行い再生計画を遂行していた場合,前回の再生計画案認可決定の確定の日から10年以内(平成17年1月1日より7年以内)の申立て
  3. 過去にハードシップ免責を受けており,前回の再生計画案認可決定の確定の日から10年以内(平成17年1月1日より7年以内)の申立て
  4. 過去に破産免責を受けており,前回の免責決定の確定の日から10年以内(平成17年1月1日より7年以内)の申立て

ハードシップ免責は債権者の同意もなく,債務が免除されるという点で破産免責と共通しており,給与所得者等再生は,債権者の意思にかかわりなく権利内容を一律に変更してしまうため,要件が厳しくなっております。

開始要件を欠いた場合の取り扱い

  1. 再生手続の申立てをし,小規模個人再生を求める申述をする場合には,同時に小規模個人再生固有の開始要件に該当しない場合には,通常の再生手続の開始を求めるかどうかを明らかにしなければなりません(221条6項)。
    1. 小規模個人再生の申立人が通常の民事再生手続を希望しない場合
    2. 通常の民事再生を希望した場合
  2. 再生手続の申立てをし,給与所得者等再生の利用を選択する場合は,給与所得者等再生固有の要件を欠いていた場合に,小規模個人再生手続の開始を求めるかどうかを明らかにしなければなりません(239条3項)。
    1. 給与所得者等再生の申立人が小規模個人再生の申立てを希望しない場合
    2. 小規模個人再生を希望する場合

執行停止とは?

民事再生開始決定の効力

  1. 訴訟手続は中断しない。つまり,法律上の取立て行為は止まりません。(通常の民事再生では中断事由となる)
    仮に手続期間中に債務名義をとられても,次のように強制執行ができず,再生計画案に沿った権利変更がなされる。
  2. 強制執行等の禁止等
    1. 再生債権に基づく強制執行,仮差押,仮処分などを行うことができず,既になされている場合は,中止されます(238条・245条は39条1項の適用を排除していない)(資料4)。
    2. 開始決定がされるまでの間については開始決定があるまでの間,利害関係人の申立てか職権で,再生裁判所が再生債務者に対する破産手続き,強制執行等を命令によって中止させる制度があります(26条)(資料5)。
       
      例えば,給与債権が差押を受けている場合,申立てと同時にこの申立てを行えばよく,さらに開始決定が出たら直ちに差押命令の取消命令を得る必要があります。その後,これを執行裁判所に上申書で報告することになります(仮差押も同様)。

 

個人民事再生の詳細(その6)に続きます。

 

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